レベル1 名前を入れる

名入れの種類1

柄をつけるということ

    陶磁器の絵柄は簡単に分けると2種類あります。ひとつは釉薬の下にある絵柄ともう一つは釉薬の上にある絵柄です。厳密に同じ意味ではありませんが、上絵(うわえ)下絵(したえ)という区別はほぼ同じ区分です。もっとわかりやすく言うと、これも厳密に同じことの説明にはなりませんが、陶磁器が土から陶磁器に生まれ変わる行程である「本焼」の時に一緒に絵柄を付けるか、一度焼き上がって陶磁器になったものにさらに絵柄をつけてもう一度焼き付けるか、ということになります。
    寿司湯呑の名入れのような一部の特殊な場合を除いて、店名やワンポイントの柄を入れる場合、大抵「上絵」で行います。上絵付け用の窯は低温度でよく大抵本窯よりずっと小さいので小ロットの対応に向き納期もわずかで済みます。例外の寿司湯呑の場合、手書きで店名と電話番号程度を入れることになり、大抵の場合それ専用の湯呑が準備されているので、例外として成り立つのです。こちらの方は業務用食器のカタログにも「名入れ専用」のコーナーなどでまとめて掲載してあるのがふつうです。

名入れの種類2

はんこと転写

    これからはわかりやすくたとえ話でいきます。ここに白いラーメン丼が50個あります。ここに「来来軒」と名前を入れる、とします。
    一番単純な方法は一個一個に「来来軒」と絵の具で手書きしてそれを焼き付けること、です。手書きだと一個一個が微妙に違ってそこがまた良い、という人もいるかと思いますが、できれば同じものが50個のほうが望ましい。それならどうすれば良いか?同じ名前を書くのが面倒でできれば同じ様な文字の形や大きさに揃えたい。「判で押したような生活」なんて言葉があるぐらいですから、ふつうに考えて、この場合まず思いつくのは「はんこ」をつくることです。通常、陶磁器の名入れの場合、手彫りのゴム印を使用します。従って、仕上がりの感じは「準手書き」という雰囲気になり、「手書きの味」にこだわる人にもまずまず気に入ってもらえます。
    しかし、実はこの「来来軒」、アマチュア書道家として名の通った親戚のおじさんにわざわざ書いてもらった看板があり、その看板をそのままロゴにした箸袋とマッチがある。できればこのロゴをそのままラーメン丼に焼き付けたい。要するにロゴを「印刷」したい。それをかなえる方法は「転写紙」を使う方法です。要するにプラモデルにマークなど付けるのに使う「デカール」を印刷し、それを丼に貼りつけて上絵付け窯で焼き付けるわけです。この転写紙の印刷法はいわゆる「スクリーン印刷」。原理としては年賀状の印刷で有名な「プリントごっこ」と同じ。だから、箸袋やマッチ箱から原版作るのはお手のもの。かくして看板と同じ文字で「来来軒」名入り丼は完成するのです。

コツその1

きれいにつくるには

    手書き、はんこ、転写。この3つなら仕上がりが完全できれいなのは断然「転写」でしょう。いくら職人芸で手書きしても、はんこを彫っても、もとの原稿を「コピー」できる転写にはかないません。ただし、この3つの方法で、同じように言えるのは「平らの方が入りやすい」ということです。平らな部分が多い皿は問題は少ないですが、丼に名入れする場合は少しでもきれいに入れたいなら迷わず「より平ら」です。ただし、この曲面への名入れでも有利なのは転写です。転写には「カバーコート」と呼ばれる透明なシートがつきもので、その上(下?)に絵柄のインクがのっているわけです。転写貼りの「名人」と呼ばれる人たちは、このカバーコートを自在に延ばすことによって元来平面である転写紙を複雑な曲面に立体的に密着させるのです。いずれにしても、あまり過度に引き延ばすことは元のデッサンを狂わせることになるわけですから、 オリジナルのおじさん直筆をねじ曲げたくないなら、なるべく平らなところに入れるべきですし、曲面に入れたいなら、なるべく小さい方が有利なことは言うまでもありません。
    前項でも言いましたように、転写は基本的に「スクリーン印刷」です。ですから印刷としてはどちらかというと原始的な部類に入ります。従って解像度はあまり良くない。これを逆手に取って、箸袋やマッチ箱でも元原稿になりうる、わけです。とはいうもののきれいな原稿があればそれに越したことはありません。出来ればその箸袋を作った元の原稿、がいただきたい。よく、ファックスで原稿が送れないか、という問い合わせをいただきますが、いくらファインモードで送られた原稿でもアウトラインは結構ガクガクしているものです。やっぱり原稿はそのものを送っていただきたいです。(おじさん直筆の看板を送りつけるのはやめてください。)それでは、画像のデジタルデータをメールに添付して送る、といういまはやりのやり方はどうでしょう。実はこの方法はまだ試したことはないのですが、名入れの原稿は大抵単色であるため、ファイルサイズがかなり小さくてもいけるのではないか?と思います。
    さて、実際には名入れで専用ロゴを使うことは少なくて、おまかせ、というのが多いのが実状です。イメージ通りの出来上がりを望むならせめて字体の指定ぐらいはするべきでしょう。

コツその2

安く作るには

    先ほどの「来来軒」の例で、「白いどんぶり50個」というのは実際にラーメン屋の名入れでよくある、ということであげさせてもらいました。この50個という数、多いか少ないかというと、「はじめて頼む発注数としては少ない。」と考えて下さい。転写を印刷するときの最低ロットは大抵100個です。これはなにを意味するかというと、たとえ50個のご注文でも、はじめに転写は100枚作ってしまって、のこりの50個は使用しない、つまり50個で名入れ丼を作ると単純に考えて転写にかかるコストが、100個作る場合の倍かかる、ということです。効率よく作りたいなら目安は「100個」です。とはいうものの、小さなお店ではこの100という数字はかなりの数です。50個分でも100個分でも値段は同じ、というのははんこを作っても同じ事です。一概には言えないところがつらいですが・・・通常「来来軒」と店名だけを小さく入れるのなら、はんこの場合の方が安いケースが多いです。一度制作した判はつぶれて使えなくなるまで当方で保管しますので、次の追加の時には判代が必要なくなります。転写の場合でも使わなかった分は保管しておきますが、転写紙は湿気に弱いので長時間の保存はできないことも頭に入れておいて下さい。
    文字を小さめに作ればいろいろな種類の食器に名入れすることができるので、違う種類の器もあわせて100個に名入れ、という考え方もできます。これは当然、はんこでも転写でも応用できます。これの応用編でもう一歩進めて、いろいろなサイズや種類のロゴを一枚のシートの転写としていっぺんに印刷してしまう、という方法もあります。これはちょっとわかりづらいかもしれませんが・・・通常、転写を印刷する場合、一つの原判に一個の店名を付けて印刷するのではなく、おなじものを何個も並べた状態で原版を作り印刷して、あとからそれをばらばらにする、という方法がとられています。この原版を作るときにはじめからいろいろな種類のものを組み合わせておけば、印刷の手間が大幅に省けてコストダウンがはかれる、わけです。この方法は同じ様な食器でそろえる中華料理店などに向く方法です。転写もシートのまま保管するので切り離した状態よりも長く保管できて、追加注文の分まで思い切って注文することができます。大抵の場合、個々に発注されるよりこの方法の方がたとえ追加注文が無かったとしても低コストでできることが多いようです。
    最後に転写に関する知識をもう少し。
    転写の価格は大きさと色数で決まります。そして制作する側が手を加えなければならないほど余分に価格に上乗せされるのです。今まで、大筋で単色での名入れを念頭に置いて進めて参りましたが、通常、2色使えば一色の場合の倍の価格となります。また金色は他の色の倍です。制作者の手を加える、とは どういうことかと言うと、例えば送られてきた原稿が汚くてそのままでは原稿には使えないので手を加えた、とか、指定文字が一般的なフォントではないのだが元原稿がないので業者に依頼して打ち出ししてもらった・・・などという場合です。原稿はなるべく完全なもの、指定文字は一般的なもの(ワープロソフトに標準で付属している程度のフォント)でお願いしたいです。
まとめ
    今までの説明を読んでも、実際にはピンとこない方がほとんどだと思います。実際には様々なケースが非常にたくさんあり、例えば低コストで仕上げる方法などは本当にケースバイケースなのです。とにかくご相談を、としか言いようがない、というのが本当のところです。ところが、大抵の場合、この「相談」の内容は、「店の名前を入れたいんだけど一体いくらかかるんだ?」というものが多いようです。これに対する答えは「場合によります。」しかないことは今までの説明でおわかりでしょう。最低でも自分の中で、どんなものが作りたいか、のイメージか、もしくは「安くつくりたい」または「きれいにつくりたい」の主張があれば話はスムーズに、具体的方向へ向かって行くでしょう。
    さて、いままでのまとめとして名入れの場合の料金の計算法をここで記しておきましょう。
    陶磁器の価格+転写の単価+加工代(焼き付け代)
    転写代と焼き付け代は「大きいほど高い」ことは言うまでもありません。あまりに当たり前すぎるこの計算式とともにこの当たり前の事実を頭に入れて置いて下さい。

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